「大丈夫」と返したけれど、本当はそうでもなかった。いざ書こうとすると、何が嫌だったのかを説明できない。そんなときは、自分が口にした一言と、そのあとにしたことから書き始めます。気持ちの名前は、まだ決まっていなくても文章にできます。
ここでは、短い下書きを少しずつ直していきます。例はすべて架空です。相手に「もう気にしていない?」と聞かれ、とっさに「大丈夫」と答えた。ところが「よかった」と返ってきてから、次の返事が書けなくなった。まずは、その場面から始めます。
本音が分からないときは、口にした言葉から。
「悲しい」のか「寂しい」のか、どちらも違う気がするときは、言葉を選ぶところで止まってしまいます。先ほどの場面なら、分かっているのは「大丈夫と返した」「返事が届いた」「その画面を何度も見た」ということです。まず、それだけを並べます。
- 言った言葉から — 「大丈夫」と返したけれど、______。
- 残った場面から — 家に帰って、______ を思い出した。
- 説明できないことから — 何が嫌だったのか、まだ ______。
「大丈夫と返したけれど、その後の返事が書けない」。この一行なら、自分が言ったことと、今していることが書けています。理由を尋ねられたときの答えを用意する前に、続けて思い出す言葉があるかを見ます。
文章にならず単語ばかり出てくるなら、「よかった、と来た」「何度も読み直した」「返せなかった」と箇条書きにします。同じ語が続いていても、そのままです。何が先で何が後だったかが分かれば、あとで文につなげられます。
一行に、あと二つだけ足してみる。
次に、「そのとき言えなかったこと」を一行足します。この例の人は、もう気にしていないわけではなく、そこで言い返すのをためらっていました。最後に、今どうするつもりかを書いてみます。
一行から三行へ広げる架空例
「大丈夫」と返したけれど、その後の返事が書けない。
もう気にしていないと思われたのなら、そこは違う。まだ話したいことがある。
何と返すかは決まらないので、この文は下書きに残す。
最初の一行だけでは見えなかった、「会話が終わったことになっている」という引っ掛かりが加わりました。これはこの例での事情です。自分の下書きには、「実は話を続けたくない」「今は返信のことを考えたくない」と書く方が近いかもしれません。
三行目の予定も、決まっている範囲で書きます。「明日返す」と決めていないなら、日付は入れません。あとで自分が読んだとき、すでに決めたことと、まだ迷っていることを取り違えないための一行です。
「会いたい」と「会いたくない」が一緒にあるなら。
ここでは別の例として、会う誘いに返事ができない場面を考えます。書くうちに反対の気持ちが出てきたら、どちらかを消す前に、それぞれの続きを書きます。「会いたい」のあとには何をしたいのか。「会いたくない」のあとには何が嫌なのか。一語だけでは反対に見えていた気持ちに、別々の事情が付いてきます。
理由を一つずつ足す架空例
あのとき何を考えていたのかは、会って聞きたい。
でも、また私だけが説明することになるなら嫌だ。
会うかどうかの返事は、まだ書けていない。
ここでは、会うかどうかの結論は出ていません。ただ、「話を聞きたい」と「同じやりとりを繰り返したくない」が見えるようになりました。「本当は会いたいのだ」と一つにまとめると、二行目に書いた心配が落ちてしまいます。
楽しかった記憶が混ざる場合も同じです。「帰り道では笑って話した」と「途中のあの言葉は嫌だった」は、別の場面として残せます。どちらかの記憶で、もう片方を訂正する必要はありません。段落を分けるだけでも、読み返したときに場面をたどれます。
長い文章は、一文ずつ役割を見る。
ここからは、人に読んでもらう原稿の整え方です。下書きでは分かっていた「それ」「今もそう」が、読み手には通じないことがあります。まず、いつ何があったかを並べ、そのあとに気持ちを書きます。
架空例:意味を変えずに文を分ける
直す前
大丈夫と言ったし返事も来て、それで何度も読み返しているけれど、話はまだ終わっていないと思っているし、もう大丈夫だと思われたままなのが嫌で返せない。
直した後
私は「大丈夫」と返した。その後に届いた返事を、何度も読み返している。
でも、私の中ではまだ話が終わっていない。もう大丈夫だと思われたままなのが嫌で、次の返事が書けない。
発言と、その後にしたことを先に置き、次の段落へ理由を移しました。「何度も読み返す」の対象は、直前にある返事だと分かるように補っています。返せない理由は元の文にあるままです。文章を整える人が理由まで推測して足すと、別の気持ちを書いた文になります。
自分で読み直しても指すものが分からない語は、無理に埋めず、印を付けて残します。同じ事情を繰り返している箇所は、一度続けて読んでみます。一つにまとめても意味が変わらなければまとめ、最後にもう一度言いたい一言なら残します。
note編集部も、文の長さや説明する語の位置、スマートフォンでの段落の読みやすさを見直す方法を紹介しています。短さだけを目標にすると、出来事と気持ちのつながりまで切れることがあります。誰の発言か、何を読み返しているかがたどれる文を目指します。参考:note編集部「読みやすい記事を書くための10のコツ」
送らない手紙と、人に見せる文章の仕上げ方。
自分だけが読む手紙なら、「あなたに言いたかった」と相手へ呼び掛けたまま残せます。「どうしてあんなことを言ったのか」という問いも、答えがないまま書いておけます。読み手のために前提を説明する作業は、誰かに見せると決めたときに行います。
本人へ送るなら、読んでほしいだけなのか、返事を求めているのかを最後に書きます。質問があるなら、何を答えてほしいのかを一つずつ示します。「今は最後まで読んでほしい」「あの日の言葉がどういう意味だったのか聞きたい」では、相手に頼むことが変わります。
公開掲示板へ出すなら、前提を知らない人にも伝わる一場面を残し、人名、所属、日時の細部を見直します。会話画面の画像を使わず、必要な発言だけ文章にする方法もあります。個人情報保護委員会は、画像に名前や位置情報などが含まれる場合について案内しています。添付する画像も、本文と同じように確かめてください。出典:個人情報保護委員会「個人情報を考える週間」写真・動画の投稿
公開用に削るときは、元の下書きのコピーを作ってから直すと、省いた言葉を手元に残せます。公開する場所もまだ迷っているなら、返信と公開範囲から考える場所選びで、誰にどこまで見せるかを考えます。
終わりの一文は、解決でなくてもいい。
「いつか笑って話せるようになりたい」と思っていなければ、締めくくりのために足さずにおきます。今回の例なら、「まだ返事が書けない」が今の状態です。そのあとに前向きな一文を足すと、かえって書きたかったことから遠ざかります。
最後に、声に出すつもりでゆっくり読みます。息が続かない文は途中で分け、何を指すか迷う語には具体的な言葉を戻します。ふだん使わない表現に引っ掛かったら、下書きでは何と書いていたかを見ます。
直したあとも「返事が書けない」の一行がいちばん近いなら、それを残します。そこへ、書けた場面と言えなかったことを足す。結論まで届かなかった原稿にも、最初の一行にはなかった事情が残っています。