第六話 ― 届かない謝罪

謝ってほしかった。その先で何を求めるか。

「ごめん」の一言だけで足りるのか。訂正してほしいこともあるのか。謝罪を望む気持ちを残しながら、次に伝える用件を選ぶ。

「そんなつもりで言ったんじゃない」。説明は聞いた。でも、謝ってはもらえていない。欲しかったのは、言った理由の説明よりも、あの言い方で自分が傷ついたことを認める言葉なのかもしれません。

「ちゃんと謝ってほしい」の中には、言ったことを認めてほしい、周囲に広まった誤解を直してほしい、同じことを繰り返さないでほしい、という望みが重なることがあります。次に伝えるなら、まだ答えてもらえていないのはどこかを確かめます。

「ごめん」の後にも、残りそうなことは何か。

例えば、みんなの前で、自分が担当した作業を「何もしていない」と言われたとします。後から二人のときだけ「悪かった」と言われても、聞いていた人は提出していないと思ったままかもしれません。その場合は、謝罪と一緒に、あの場にいた人への訂正も求めたいところです。

発言や行動を認めてほしい
どの言葉を言ったのか、何があったのかを、曖昧にしたまま話を終えないでほしい。
周囲に伝わった内容を直してほしい
残っている誤解や、今も使われている誤った情報を訂正してほしい。
次からの対応を変えてほしい
人前で決め付けず確認してほしい。嫌だと伝えたことを繰り返さないでほしい。

一方、誤った情報があるわけではなく、あの態度そのものを謝ってほしいこともあります。嫌だと伝えた後も笑われた。「気にしすぎ」と話を終えられた。その場合は、訂正や今後の約束に言い換えるより、何を流されたままにしたくないのかを書きます。

態度について伝える例

冗談だったという説明は聞いた。でも、私が嫌だと言った後も笑われたことが残っている。そのことについて、どう思っているか聞きたい。

この文で謝罪が返ってくるかは、相手によります。謝罪の言葉を聞きたいのか、それに加えて、嫌だと言った後の扱いについても話してほしいのか。自分がまだ返事を待っている部分が入っているか、送る前に読み返します。

今回の出来事と、求める返事が読める文にする。

伝える文には、相手がどの話か分かる情報と、答えてほしいことを入れます。長い経緯を書いた場合は、読み返して「何をしてほしいか」が途中に埋もれていないかを見ます。

誤解の訂正も求めたいときの例

昨日の集まりで「担当分をしていない」と言われた件です。私が提出した資料は共有先に残っています。あの場にいた人にも、提出済みだったと訂正してほしいです。確認せずにそう言われたことも、嫌でした。

「いつも自分が正しいと思っている」と書きたくなったら、今回はどの発言が問題だったのかへ戻ります。過去にも同じことがあったなら、「前にもこの言い方はやめてほしいと伝えた」と経緯を添える。相手の性格を説明するより、繰り返されたことが何かを示します。

厚生労働省「こころの耳」は、自他を尊重しながら考えや気持ちを表現する方法をアサーションとして説明しています。上の文は、その考え方を参考に作った例です。相手へ譲る言葉を探すだけでなく、自分が嫌だったことも用件に含めています。参考:こころの耳「アサーション」

何度も書き直しているなら、すでに伝えた内容と、まだ伝えていない内容に印を付けてみます。新しい一通が同じ説明の繰り返しになっているなら、言葉を増やす前に、今どの返事を待っているのか確かめます。送信欄ではなく、宛先のないメモで作業すると、途中の文をそのまま送らずに済みます。

説明が返ってきても、頼んだことへの答えは残る。

「そんなつもりではなかった」と返ってきたとき、それを聞いたことと、問題が済んだことは同じではありません。意図の説明をどこまで理解したかとは別に、求めた訂正ができるかを聞きます。

用件へ戻す返事の例

そういうつもりではなかった、という説明は聞きました。今確認したいのは、提出済みだったと訂正してもらえるかです。

謝罪そのものを求めている場面なら、「冗談だったことより、嫌だと伝えた後のことを話したい」と返す形になります。相手の意図を言い負かすために、覚えている言葉を全部持ち出すのではなく、まだ答えてもらえていない点へ戻します。

「あなたにも悪いところがあった」と別の話が出たら、「その件をどう話すかは後で考えたいです。まず、今回のことへの返事をください」と区切る例もあります。自分が謝りたい点が見つかったら、その発言や行動について答える。ただ、それで相手への質問も取り消したことにはなりません。

同じやりとりが続き、用件への返事が出ないなら、「今日はここまでにします」と会話を終えることも考えます。NHSは、穏やかに話すことが難しい場合、時間を置いて改めて話すことを案内しています。再開するなら、まだ答えの出ていない点を手元に残しておきます。参考:NHS「Dealing with relationship conflicts」

返事がない間に、進める用事と待っている言葉。

返事がない理由は、こちらからは分かりません。次の集まりが近づいているなら、待っているのが謝罪の言葉なのか、当日の資料を直すための確認なのかを見ます。

準備に必要な返事なら、「次の資料を作るので、金曜までに提出済みだと確認してほしいです」のように、期限とその理由を添えます。必要な訂正が進まなければ、担当者や既存の相談先へ、日時・提出物・求めている対応をまとめて伝えることを考えます。気持ちを書いた文とは用途が違うため、元の記録を残して別の文章を作る方法も参考になります。

謝罪だけを待っているときは、用件の期限と同じようには決められません。「今夜までに謝ってほしい」と送っても、自分が望む返事を選ばせられるわけではないからです。もう一度伝えるか迷うなら、まだ話していないことがあるのか、それとも同じ言葉をもう一度読んでほしいのかを、送る前に確かめます。

同じ説明を何度も送っているなら、「求めたことは伝えた。今は追加で連絡しない」と手元に書き、そのやりとりをいったん止める方法があります。追加の連絡をやめることと、謝ってほしかった気持ちを撤回することは違います。届いていない返事を、届いたことにして終わらせる必要はありません。

謝ってもらえたら、何と返すか。

いざ謝られると、「いいよ」と言うほかに返事が見つからないことがあります。まだそう思えないなら、謝罪を聞いたこと、訂正を確認したこと、その後の付き合い方について、今言えるところまで答えます。

謝罪を受け取ったときの例

謝ってくれたことは分かりました。訂正してくれたことも確認しました。まだ気持ちは落ち着いていないので、次の作業を一緒にするかは、少し考えてから返事をします。

「もうその話は終わりだよね」と確認されても、今後の約束までできていなければ、その点は伝え直します。謝罪があった後も許せない自分を責めてしまうなら、日常の返事と、許すことを一緒に決めないための話が続きになります。

訂正が済んだところは確認する。まだ答えてもらえていないことは残す。次も一緒に過ごすかは、改めて考える。相手から一つ返事が来たとき、自分も一度に全部の答えを返そうとしないことが、次のやりとりを考える出発点になります。