第七話 ― 許せないままで

許せないまま、明日の予定を決める。

挨拶を返せたことも、集まりを断ったことも、許しの答えとは限らない。気持ちの結論を急がず、必要な返事を一つずつ考える。

朝は挨拶を返した。必要な資料も送った。それなのに、あのときのことを思うとまだ腹が立つ。「普通にできたのだから、もう許したはず」と、自分まで話を終わらせようとしていないでしょうか。その日の用事を済ませたことと、あの出来事への答えは、重なるとは限りません。

相手がいる集まりに参加する、連絡には返す、でも以前のように親しくはしたくない。許せない相手と生活のどこかで関わる人は、一つの返事で何を了承したことになるのかにも迷います。ここでは、その場で求められていることを具体的に見ていきます。

「許して」に、どんな頼み事が含まれているか。

一度の「許して」で、いくつものことを求められる場合があります。出来事をもう責めないでほしい。次の食事会に来てほしい。前と同じ相談相手でいてほしい。言った本人も、どこまで望んでいるかはっきりしていないかもしれません。

返事に困ったら、「次の集まりに来てほしい、という話?」と、具体的に何を頼まれているのかを確かめます。出欠を答えたいのに、出来事の受け止め方まで同時に決めようとすると、短い返事にも重さが加わります。

出来事への気持ち
今も嫌だったと思っているか、考えが変わったところはあるか。人へ伝える前に、自分でも答えが見つからないことがある。
これからの付き合い方
どこで会うか、何を話すか、どのくらい連絡するか。相手との間で調整が必要になること。
残っている用事
借りた物の返却、共同作業、必要な連絡。その用件について、今決めたいこと。

例えば、返却の日は決められても、食事に誘われた返事はできない。「物は土曜日に返します。食事は今回は見送ります」と伝えれば、用事を済ませながら、まだ応じる気になれないことも示せます。

普通に接した日を、仲直りの約束にしない。

同じ職場や集まりにいる相手なら、毎回あの件を話し合って過ごすわけにはいかない日もあります。挨拶を返す、資料を送る、周りと同じ話題で笑う。その後に「これではもう気にしていないと思われる」と、振る舞いを後悔することもあるでしょう。

挨拶や連絡をした後、相手から「もう元どおりだね」と言われたら、今応じられることを伝えます。「用事の話はできるけれど、二人で過ごすのはまだ難しい」。次の誘いに返事をするときも、何を引き受けられるかを具体的に答えます。

共通の友人を祝う集まりの例

友人のお祝いには参加したい。ただ、あの人と二人で話すつもりはない。今日はお祝いを伝えて、食事が終わったら帰る予定にしておく。

同席すること自体が難しければ、出席を決める前に主催者へ確認します。「その人と一緒に過ごすのはまだ難しいので、参加するか決める前に、来る予定か教えてほしい」。参加できる条件を伝えることは、相手を招かないよう求めることとは違います。

欠席するなら、「今回は行けないけれど、お祝いは別に伝えたい」と、友人への気持ちも添えられます。どちらを選んでも、当日の自分が過ごせるかどうかが大切な判断材料です。以前一度会えたからといって、今回も同じ予定を引き受けると決まったわけではありません。

「もう許してあげたら」と言われたとき。

周りから仲直りを勧められると、なぜまだ嫌なのかを全部説明して、分かってもらいたくなります。ただ、知ってほしい気持ちと、出欠などの返事を済ませたい用事は、途中でずれることがあります。

共通の友人とのやりとりの例

「もう謝ったんでしょう」
「謝ってくれたことは分かっている。でも、まだ一緒に過ごす気にはなれない」

「それでも来てよ」
「今回は欠席するね。お祝いは別に伝えたいと思っている」

相手が納得したかどうかを確かめ続けると、話したくない経緯まで説明してしまうことがあります。出欠を知らせたい会話なら、希望が伝わったところで日程の話へ戻します。詳しく聞かれたくない場合は、「経緯をこれ以上話すのは控えたい」と添えます。

厚生労働省「こころの耳」は、自他を尊重しながら考えや気持ちを伝える方法をアサーションとして案内しています。上の例も、誘ってくれた友人を責めずに、自分の返事を伝えるためのものです。参考:こころの耳「アサーション」

事情を聞いてほしいときは、出欠の調整が終わった後で、「今回は、私がまだ嫌だと思っている理由も少し聞いてほしい」と頼む形もあります。「今日は欠席の連絡だけにするね。別の日に聞いてもらえたらうれしい」と、その人の都合を確かめて、改めて話す時間を取る方法もあります。

「こんな自分は嫌だ」と思う日もある。

会う予定がなくても、相手が楽しそうだと聞いて腹が立つことはあります。「私は執念深い」と結論づける前に、その日に何を聞いて、どう思ったかを書いてみます。

自分を責めているときの書き方の例

あの人が楽しそうにしていると聞いて、まだ腹が立った。
もう気にしていない自分でいたかったので、そんな自分にもがっかりした。

相手への怒りと、怒っている自分への落胆が、ここには両方あります。予定を決める用事がない日なら、会うか離れるかの結論まで書き足さず、今気付いたところで止めておきます。前向きな一文を足しても、最初の二文が消えるわけではありません。

自分にも謝りたい点があれば、それはその行動について考えます。「強い言い方をしたことは謝りたい。でも、私の話を広めてよかったとは思っていない」。自分の振る舞いを見直した結果、相手の行動への受け止め方まで同じ答えになるとは限りません。

嫌だったことをもっと詳しく残したいときは、出来事と自分の受け取り方を書き分ける方法を使えます。「まだ覚えている」という事実だけで、許せたかどうかを判定するのではなく、今何を残したくて書いているかを見ます。

来週の返事と、その先の関係。

予定の返事をするとき、未来の付き合い方まで確定させようとすると書けなくなることがあります。「二度と会わない」とまでは決めていない。でも、来週は会いたくない。その場合は、決まっている範囲を伝えます。

今決まっている予定を伝える例

来週の集まりは欠席します。その後の予定は、まだ決めていません。

反対に、用事の連絡をしただけなのに、「仲直りした」と周囲へ伝わることもあります。そのために同席の予定が組まれそうなら、調整している人へ、何が違うのかを伝えます。

仲直りしたと受け取られたときの例

用事のやりとりはしていますが、あの件の話が済んだわけではありません。二人で会う予定は、今は入れないでください。

挨拶を返したことや資料を送ったことまで否定せず、その行動から決め付けられた部分を伝え直す。まだ許せない自分を説明し切れなくても、次の予定について困る点は具体的に言えます。日常の返事が、気持ちの答えまで代わりに伝えたことになっていたら、必要な相手へそこを補います。