第九話 ― 喜べない夜

人の幸せを喜べない。返す言葉と、残る本音。

おめでとうと言いたいのに、うまく返せない。相手へ返す言葉と、自分の中に残った羨ましさを別々に扱う。

友人から「仕事が決まった」と連絡が来た。よかったね、と打っては消す。自分はまだ結果を待っている。友人に返す短い言葉と、その後も残る悔しさを、同じ文章で片付けようとすると手が止まります。

友人が悪いことをしたわけではない。それも分かっているから、自分の気持ちをどこへ向けてよいか困る。まずは届いた連絡への返事を考え、送る文には入らなかったことを手元で見ていきます。

報告への返事と、お祝いの約束。

「おめでとう」とは伝えたいけれど、長く話を聞く余裕はない。そのときは、一言の祝福に、今できない約束まで足さずに返します。明るい長文を作ろうとすると、自分がまだ引き受けたくない予定も書き込んでしまうことがあります。

友人への返事の例

決まったんだね、おめでとう。知らせてくれてありがとう。

おめでとうという言葉も今は出てこないなら、「知らせてくれてありがとう」と、連絡を受け取ったことだけ返す形もあります。いつもの自分より短いと気になるかもしれませんが、長さを埋めるために「絶対にお祝いしよう」と足すと、次はその予定への返事が必要になります。

実際にお祝いへ誘われたときは、参加できるかを改めて答えます。「今は予定を決める余裕がなくて、今回は見送らせてね」。後日会いたい気持ちがあるならその希望も伝える。まだ分からないなら、「また今度」を約束として添えず、その誘いへの返事にとどめます。

短い返事を不思議に思われたら、「今、自分の結果を待っていて、少し余裕がなくなっている」と、自分の状況を伝える方法もあります。どこまで話すかは相手との関係によりますが、気持ちの全部を一度に説明する文を作るより、今何に返事をしているかを確かめます。

同じ報告の、どこがうらやましかったのか。

返事を送った後も、報告の一文が頭に残ることがあります。仕事が決まったこと。周囲から祝われていること。先の予定を楽しそうに話せること。「あの人の全部がうらやましい」と感じたときも、目が止まった言葉を思い返すと、気になる部分が少し違って見えるかもしれません。

「私も同じ職種に就きたい」と、「私も努力が報われたと人に話したい」では、望んでいることが違います。前者なら仕事の条件や応募先を考えたいのかもしれない。後者なら、今は助言より、結果を待っているしんどさを聞いてほしいのかもしれない。答えを決めるためではなく、自分の文を続けるために問いを置きます。

下書きに足してみる問い
  • 報告の中で、何度も読み返したのはどの言葉か。
  • 同じことが自分に起きたら、何がいちばんうれしいか。
  • 今、誰かに聞いてもらいたいのは何の話か。

「努力を認めてほしかった」と書けても、すぐに友人を喜べるとは限りません。その一文から応募先を増やす話へ進みたい日もあれば、「今日はまだ悔しい」で止まる日もある。何がうらやましかったか分かったことと、次に行動する元気があることも、同時とは限りません。

お祝いのコメントまで、何度も読んでしまうなら。

返事をした後も投稿を開き、ほかの人のお祝いコメントまで読んでいる。読み終えるたびに自分と比べてしまうなら、今夜はどこまで見るかを決めます。通知を止める、画面を閉じる、しばらく表示を減らす設定を探すなど、今使っている画面で変えられることを確かめます。機能名や相手に通知されるかどうかは、サービスの説明を見てください。

友人との連絡は続けたいが、近況の投稿を毎日読むのはつらい、ということもあります。直接届いた用件には返すけれど、自分から投稿を見に行くのは休む。そのように、しんどくなる場面に合わせて接し方を変えることも考えられます。

会う予定があるなら、どんな時間になりそうかを想像します。二人で短く話すなら会いたいのか、大勢のお祝いの場は今は難しいのか。「友達なら行くべき」とだけ考えるより、今回はどの誘いに返事をしているかを見ます。

距離を置く理由を伝えたくなったときは、相手に何を頼みたいのかも書いてみます。「しばらく返信が短くなるけれど、落ち着いたらまた話したい」のか、「今の悔しさを聞いてほしい」のか。後者なら、まず相手がその話を聞けるかを確かめてから話します。

手元の下書きは、すぐにきれいに直さない。

誰にも見せない文章に、「苦労していない人ばかりうまくいく」と書いてしまう日もあります。読み返して嫌になっても、その場で公正な文章に直そうとせず、何があってその言葉が出たのかを書き足してみます。

後から続きを書く例

最初に書いた言葉
苦労していない人ばかり、うまくいっている。

読み返したときに足した言葉

相手がどんな準備をしたかは、私は知らない。
でも、報告を見て「私はまだ待っているのに」と思った。
私も一度、結果の話を明るくしてみたかった。

最初の文を消さずに続きを書けば、書いたときと読み返したときの違いが残ります。「相手の苦労を知らない」と分かっても、悔しさは残っている。その両方を書いた原稿です。理由がまだ分からない日は、見た報告と、そのとき出た言葉だけでも記録になります。

その原稿を公開したくなったら、別の作業として読み直します。自分の気持ちを伝えるために、元の報告の引用や相手が分かる画像まで載せる必要があるか。相手を知らない人に読んでほしいのは、どの部分か。元の下書きは残し、見せる方の原稿を作ります。記録の具体性を残して公開文へ直す例も参考になります。

気持ちを抱えたことと、言ってしまったこと。

友人を喜べなかった自分が嫌になると、心に浮かんだ言葉も、実際に送った言葉も、一緒に責めてしまうことがあります。今のやりとりで何を直したいのか考えるなら、まず、相手に届いたのはどの文だったかを確かめます。

例えば「運がよかっただけでしょ」と送ってしまったなら、「さっきは、運がよかっただけなんて言ってごめん」と、その発言について謝る。自分の結果待ちがつらいことを説明するとしても、それで謝罪の代わりにはしない文を考えます。

嫌な言葉は手元の下書きに書いただけだったなら、相手へ送った文とは分けて読み返します。返事が短かったことを説明したいのか、悔しい気持ちを聞いてほしいのか。次に何を話したいかが見えてきたら、そのことを伝える文を考えます。

報告には短く返事をした。お祝いの誘いは今回は断った。まだうらやましい。その三つが残る日もあります。今日のやりとりを読み返すなら、気持ちを採点するより、相手に何を伝え、何をまだ引き受けていないかを確かめます。次に返事をするときは、そこから続きを考えます。